無期契約への転換逃れの悪知恵は破砕できる

約5年前の2012年8月3日、改正労働契約法が国会を通過して成立した。同法はその1週間後の8月10日に公布され、同時にその大部分が同日施行された。この改正の最大の焦点であった第18条―有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換させる―は2013年4月1日に施行された。「研究者」などを対象とした「無期転換は10年を超えてから」という「特例」は別の法律の下、更に1年後の2014年4月1日に施行された。

この「有期労働契約の無期労働契約への転換」は、その実行が2018年4月1日から可能となる。この転換は雇用の安定・確保という意味では、非正規労働者にとっては望ましいものである。同時にこれは、非正規労働者を安いコストで雇い、都合が悪くなれば簡単に解雇できる状態を維持したい経営者にとっては望ましくないものになる。だから現に、非正規労働者のいる全国の労働現場では、この転換の権利の確保を目指す非正規労働者と、この権利を与えたくない経営者との間のせめぎ合いが日を追う毎に広がり、激しさを増している。その実例については、本ホームページでも紹介してきた。

 

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無期転換逃れの手口

経営者による「無期転換逃れ」の動きは2017年春から顕著となった。それは1年契約の非正規労働者が2017年度の契約(多くの場合、2018年3月まで)を交わすにあたってその契約書の中に「この契約が最後の契約」という一文が加えられるなど、無期転換の実行が始まる2018年4月1日以前に雇い止めをしようというものである。

また、もう少し手の込んだ手口としては「クーリングオフ」の「活用」もある。

改正労働契約法第18条が言う「有期労働の5年を超える反復更新」は、その期間内に6か月以上の空白期間(クーリング期間)がある場合は、この空白期間以前の契約期間はゼロとなることになっている。この点をついて非正規労働者に「6か月の一時解雇を了承すれば、その後の再雇用を約束する」などと迫り、それまでの契約期間をゼロにすることで非正規労働者の無期転換の権利を奪うという手口である。

その他、この手の経営者はあれこれと策を巡らせて無期転換逃れを図っている。

 

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基発0810第2号・2012年8月10日

改正労働契約法が公布され、同時にその大部分が施行された2012年8月10日に「基発0810第2号」が送付された。「基発」とは、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長への通達のことである。

全38ページに上るこの通達は、都道府県労働局が改正労働契約法に沿って指導を行なうにあたっての手引きにあたるもので、無期転換の権利確保を求める非正規労働者に役立つ内容が含まれている。

以下、特に注視すべき点について簡潔に紹介し解説する。この手の文書の常だが、文章は難解である。

なお、この通達の全文はこの記事の末尾のリンクから。

 

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第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)

その趣旨については以下のように述べられている(一部略)。

「有期契約労働者については、雇止めの不安があることによって、年次有給休暇の取得など労働者としての正当な権利行使が抑制されるなどの問題が指摘されている。
こうした有期労働契約の現状を踏まえ、法第18条において、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを設けることにより、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることとしたものである」

要約:有期契約労働者は雇止めの不安のために正当な権利がなかなか行使できない。だから、条件を満たした有期契約労働者に無期契約への転換の権利を与え雇用の安定を図ることがその趣旨である。

そしてその「条件」については(一部略)「同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える有期契約労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされ、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約が成立することを規定したものである」

要約:同じ雇用主の下で契約更新を経て通算5年以上働いた有期契約労働者は無期労働契約への転換を申し込むことができ、雇用主はこの申し込みを拒むことはできない。

更に「無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるものである」

要約:無期雇用への転換の権利をまだ持たない有期契約労働者に対して、この権利を放棄することを契約更新の条件とすることは法の趣旨に反するもので無効である。

加えて、「無期労働契約への転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではない」

要約:仕事は変わらないのに、無期契約にすれば労働条件をそれ以前の有期契約時より悪化させることは認められない。

次のような指摘もある(一部略)。

「有期契約労働者が無期転換申込権を行使することにより、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約がその行使の時点で成立していることから、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日をもって当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする使用者は、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約を解約(解雇)する必要があり、当該解雇が法第16条に規定する『客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合には、権利濫用に該当するものとして無効となる。

また、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日前に使用者が当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする場合は、これに加えて、当該有期労働契約の契約期間中の解雇であり法第17条第1項の適用がある。

なお、解雇については当然に労働基準法第20条の解雇予告等の規定の適用があるものである」

要約:無期契約への転換の条件を得た有期契約労働者が、有期契約が終わる次の日からの無期契約への転換を申し込んだ場合、雇用主が有期契約の終了時点でこの労働者との契約を終わらせようとすれば、それは「無期雇用の労働者の解雇」に当たり、合理的理由がなければ無効となる。有期契約期間中に解雇しようとすれば同じく合理的理由がなければ無効となる。そして、当然にもいずれの解雇にも労働基準法第20条の解雇予告等の規定が適用される。

 

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第19条(有期労働契約の更新等)


その趣旨:「最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)を規定し、一定の場合に雇止めを認めず、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなすこととしたものである」

その内容:「第19条第1号は、有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝柳町工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決)の要件を規定したものである」、「第19条第2号は、有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示した日立メディコ事件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決)の要件を規定したものである」

要約:雇用主が雇止めをすることが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない時は雇止めは認められない。この場合、労働者からの契約更新や契約締結の申込みを雇用主は承諾したものとみなされ、それまで契約と同一の労働条件で契約が成立することになる。

 

ことほど左様に、この改正労働契約法が公布された2012年8月10日以降に計画あるいは実行される「無期転換回避・雇い止め」を狙った経営側の策は、法的には実に高い壁に阻まれているのである。

 

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文字を力ある武器に

この「基発0810第2号」は、上に紹介した例を含むあれこれの無期転換逃れや雇い止めが違法・不当なものであることを明確にする根拠を我々に提供している。

ここで改めて、しごく当たり前のことを確認しておかねばならない。

法律もこのような通達も、そしてそれぞれの法律の執行に責任を持つ各行政機関も、我々が何もしなくても効力を発揮し、事態を是正・改善してくれることはない、ということである。これらは全て、我々が積極的に使い、働きかけ、時には圧力を加えて「仕事をさせる」ことが不可欠である。それなしには何も変わらない。

改正労働契約法も、そして「基発0810第2号」も、我々が活用することによってのみ「文字が力ある武器に変わる」のだ。

活用法の相談はゼネラルユニオンへ。

基発0810第2号全文


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