論説:「派遣は安上がり」という神話

派遣会社(アルティアセントラル、インタラック、ジョイトーク、ハートコーポレーション等)が存在し続けている最も大きな論拠とされているのが、「教育委員会が直接雇用をするとあまりにお金がかかる」というものである。こうした主張の中には、「直接雇用はお金をたんまり持っている教育委員会だけができる贅沢だ」というものさえ見られる。そして、直接雇用は、高い費用に見合った力を持った、経験豊富で信頼できる教師にのみ相応しい、と。

 

これとは対照的に、派遣会社は「安い費用で」ALTを用意する。自分達が提供する仕事に頼る以外にやっていけない者達に「仕事を作る」ことによって。

違うだろうか?

そして派遣会社はこう言う。

「JETプログラムの費用も支え直接雇用の教師にかかる大きな支出の負担にも直面している、財政が切迫している教育委員会にとっては、派遣会社がより安い費用で教師の派遣を行なうのは幸運なことで、それがないとやっていけなかったかも知れない。そして同様にALTも、こうしたことが外国人労働力(つまり彼等自身)のために仕事を作ってくれることになるのだから幸運だ」と。

この論の唯一の問題は、これが全くの虚構であることにある。

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直接雇用は「高い」:派遣は違う

長い間、私もそうと信じてきた「真理」があった―JETと直接雇用とはお金がかかり、派遣会社に頼めば安い―。

だから、日本で英語を教えたければ派遣会社のALTになるべし。

上を目指して登るべきキャリアの梯子がある。でもその梯子は2段の脚立で、キャリアといっても、下段か上段しかない。(それでも、上段に上れば「おめでとう」なのか?)

 

 しかも、費用を安く上げるためにプラスチック製である。

 

派遣会社は、更にあなたにこう言う。

「すでにJETプログラムに参加していないのであれば、これは選択肢にはならない。現在日本に在住しているのでJETプログラムには申し込めない。

残るは教育委員会の『直接雇用』だが、これはめったにないし費用がかかる。もし見つけたとしても、この仕事を得るには日本語・英語ともに流暢に話せることが必要だし、教員免許を(時には二つ!)持っていなければならない。

それに、直接雇用は高過ぎるのでそもそもない。だから、今はどの教育委員会も派遣会社を使っている。文句を言うな! 現状で満足しろ。日本で暮らし始めているだろう? 生きるのは簡単じゃないんだ!」

と、このように……。

ある日私は、私の地域の教育委員会の会計報告を入手した。そして、更に他の教育委員会の会計報告を入手した。

そして私は、私が「わかっている」と思っていたこと全てが事実ではないことがわかった。

 

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背景をいくらか

「直接雇用はお金がかさみ、派遣会社は必要悪」という説を分析するために、この文章で取り上げる市について説明をしておきたい。

宮城県の東部に位置するこの市は人口4万人で3つの中学校と8つの小学校があって、大手派遣会社と契約を結んでいて、この派遣会社は教育委員会に4名のALTを派遣している。

また、この市は2011年の東日本大震災とそれに続く津波で大きな被害を受けた。

Wikipediaによれば、この津波によって「少なくとも1,039人が犠牲となり、11,000棟以上の建物あるいは市内の建物の約3分の2が破壊された。市の約63%が津波による浸水に見舞われた。

この市が大都市でも財政が豊かな市でもないことがおわかり頂けるだろう。自然災害によって大きな被害を受け、現在も復興の途上にある。

おわかりだろうが、派遣会社がその利点を示すための完璧な「イメージキャラクター」とされているのである。

 

 

「比較的安く済む派遣会社のおかげで、ここ津波被害に遭った教育委員会もよりよい英語教育のためにALTを市内の学校に派遣できている」と言う人もいるかも知れない。

果たしてどれ程「安い」のか? 平成26年度、教育委員会は派遣会社に19,108,000円支払った。ALT一人当たり4,777,000円である。

この「ALT一人当たり」の金額を12で割ると、「ALT一人当たり」の毎月の金額が出る。

ALTの直接雇用の給料を300,000円と仮定すると、ALT一人当たり398,083円は信じさせられてきた話とは随分違う。

 

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神話を打ち破る:粗利益

教育委員会から派遣会社へどの程度の金額が間接経費などとして支払われているかは簡単には分からない。そのためには、我々が手にした唯一の数字19,108,000円から始めるしかない。

この市で働いているALTがそれぞれいくらの給料なのかを正確に知ることも難しい(いくらかの差はあるから)が、その平均年収は十分に算出できる。

ALTそれぞれの年間総収入は約2,495,500円(満額の230,000円が8カ月、その75%の172,500が3カ月、60%の138,000円が1カ月)。

従って、4名のALT全体への年間総支給額は9,982,000円と言える。

派遣会社が教育委員会から19,108,000円受け取るのであれば、その派遣会社は9,126,000円の粗利益を得ていることになる。

 

 

しかも、述べたのはたった一つの教育委員会との間の話に過ぎない。

 

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神話を打ち破る:純利益

上で算出した9,126,000円は粗利益であって純利益ではない。

派遣会社がALTを社会保険に加入させていないことは知られている。だから、会社には社会保険の負担は一切ない(これについては後述)。

これを前提に、派遣会社が支出する諸経費を以上に加算して、純利益を見積もってみよう。

契約書によれば、この市で働くALTには「地域手当」として月20,000円が支給されていて、これを加えると基本給は250,000円となる。

また、派遣会社は月約2,000円を雇用保険料として支払っているから、これも純利益から差し引こう。

地域手当を加えると、各ALTの年間総収入は2,711,000円(満額の250,000円が8カ月、その75%の187,500が3カ月、60%の150,000円が1カ月)となる。

雇用保険については、派遣会社は年間96,000円(2,000円×4人×12カ月)支払っている。

19,108,000円からALTの年間給料分の10,844,000円(2,711,000円×4人)を差し引き、更にこれから雇用保険料の96,000円を差し引くと、純利益は8,168,000円になる。

重ねて言うが、これは小さな一教育委員会についての計算である。

言い方を変えれば、この派遣会社はメールを送り、時々電話をかけ、見回りをやるだけで年間8,168,000円を得ているのである。

まさに「濡れ手に粟」の商売である。

 

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神話を打ち破る:社会保険料を支払わねばならないとしたらどうだろう?

どうして社会保険(と言うよりむしろ社会保険逃れ)こそが英語教育ビジネスの諸悪の根源なのだろうかという問題を考えるために、問題の派遣会社が4人のALTを社会保険に加入させたらどうなるか見てみよう。派遣会社が最も忌み嫌う仮定である。

毎月の社会保険料を40,000円とする(私が毎月支払っている金額)と、派遣会社も同額の40,000円を支払っていることになる。

40,000円×12カ月×ALT4人で、年間の社会保険料は1,920,000円となる。

これを差し引くと、年間純利益は8,168,000円から6,248,000円に減る。

これでも結構な金額である。だが、彼等が法に従えば支払わなければならない社会保険料1,920,000円を不正な手段で更に懐に入れているのがおわかりだろう。

 

***

 

「派遣」対「直接雇用」

最初の問いに戻ろう。直接雇用は派遣より高いのか?

先に述べたように、直接雇用のALTの平均給与は月約300,000円である。教育委員会毎に差があるのは間違いないが、この数字は計算を行なうには妥当なものである。

また、教育委員会が違法なことを行なうというのは通常はないことだから、社会保険料の40,000円がこれに加算され、更に、きりのいい数字として10,000円(雇用保険など)を加える。

これで、直接雇用のALTの平均費用は月350,000円となる。一方、派遣ALTの平均費用は月398,083円だった。つまり、一人のALTについて月48,083円・年576,996円の差があるのである。

もしこの教育委員会が怪しげな派遣会社と契約する代わりにALTを直接雇用していたら、ALTを社会保険に加入させ、生活するのに十分な給料を払い、仕事を安定させ、中間管理費を排除して、年間約2,307,984円(576,996円×4人)の税金が節約できたのだ。

これは、費用の面で見てもALTの生活の質の面で見ても大きな差である。

 

ゼネラルユニオンが、なぜ直接雇用を強く訴えているのか、おわかり頂けただろうか?

 

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終わりに

この「直接雇用は高い/派遣は安い」という幻想がいかにして生まれたのかを語るのは難しいが、それがどのようにみんなの意識の中に広がったのかについてはすぐにわかるし、この神話がずっと、関わった会社にいかに利益をもたらしてきたのかも同様にすぐにわかる。

派遣会社は自らを「教育委員会と外国人教師との橋渡し役だ」と主張する。だが実際には、その教師(実際の仕事は全部自分がやっているのに、なぜ派遣会社は自分の給料から盗むのか、と疑問を持っている)と教育委員会(なぜ大したことをやっていない会社に大金を払っているのか、と疑問を持っている)との間にある壁が派遣会社なのであり、それは両者の良好な関係を阻害しているのである。

教師と教育委員会とが、その中間にいる者を排除することがお互いのためになることが分かれば、派遣会社は自分達が必要な存在であるという幻想を積極的に作り出すことで手にしてきた大金をたちどころに失うことになる。

直接雇用の教師になれば暮らしがいかに良くなるかが分かった今、自分がやる仕事によってあなたが作り出す信用を強欲な派遣会社が横取りしてわがものにすることを容認する理由はもうないだろう。

あなたがどうするにせよ、「でも派遣は安いから!」という神話にはもう騙されないで頂きたい。

派遣会社があなたに信じこませているよりも、あなたの実際の価値はずっと高いのだ。

 

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当組合は様々な意見を順次掲載したいと考えており、組合員の皆さんの投稿を求めています。職場が抱えている問題についての意見を待っています。組合内でそして外国人コミュニティの中で議論が交わされることを願うものです。500~1,000語程度の長さで、Word形式でお願いします。宛先はunion(@)generalunion.org まで。

 

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